椿

Written by:沖津 結架

椿の花は咲いた後、花弁が一枚一枚散っていくのでは無く。
がくの付け根からぼたりと地に落ちる。



地面に転がる椿の赤が
何故だけ血の朱に重なって見えた。
嫌だな、と呟くと、総司はひとつ溜息を吐いた。



「総司」
名を呼ばれて振り返れば、そこに土方が立っていた。
彼とは長い付き合いだから、これから何か頼まれるだろうことは、
容易に想像できる。
「何をしていた」
「椿、見てたんです。綺麗でしょう?」
言葉を切って、
「どうしました?」
取り敢えず本題に入ってみた。
「伊東参謀の手の者が、お前に一手ご教授願いたい、だとさ」
「わかりました、直ぐ行きます」
「完膚無きまでに叩きのめしてくれ」
土方は伊東にいくらかの疑心を抱いていた。
なめられて下手な行動を起こされる前に、
古株の「一番隊隊長」の実力を見せつけておけ、ということらしい。
「承知」
短く答えると、総司はくるりときびすを返した。



勝負はあっという間にカタがついた。
総司が圧勝したときの伊東の表情から察するに、
大方土方の読みは当たっていたようだった。
総司は防具の紐を解いて外し、袴も脱いでいつもの着流しに着替えた。
髪を下ろし、ひと息ついたところで。
胸の辺りが締め付けられるように苦しくなり、
激しい咳が何度も出た。
肺は必死に酸素を求めるのにそれも叶わず、
上半身を折りまげて更に大きく咳き込んだ。

何とか咳を鎮めて深く息を吸って漸く呼吸を整えた。
不覚にも滲み出た涙を手の甲で拭ってそれを開くと、
手のひらに血が数滴付着していた。
それを確かめると同時に酷い疲労感に襲われ、
いつか聞いた死の宣告が脳裏をよぎる。



「さっき、何を考えていた?」
さっきと同じ場所で椿を見つめる総司に、
土方はさっきとは違う問い掛けをした。
「さあ?」
「お前…」



尚も何か言いたげな土方の頬に総司は軽く口付けた。
「大丈夫、何処までもついていきます」
これ以上訊くなと言外に囁いて。

いずれ違える、哀しい約束。


「馬鹿野朗…」
抱き締められ、優しい腕の温もりに総司はゆっくりと瞳を閉じた。


生きることに執着は無い。

“あとどれだけ、貴方を守れるか”
それだけが問題。

貴方の中の私は、遠くないいつか、遠い日の想い出になるのでしょう。
病に冒されたこの身は、最後まで貴方と共にはいられない。

ならばせめて、
最期まで貴方の為に生きて。
潔く逝きたい。



足元に散る、この椿のように。

モドル

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送