時の流れ

Written by:未来

 淡い雪の結晶がふわふわふわふわ舞い落ちる。
 時の流れを伝えるように静かに静かに積もりゆく。

「何を見ている?総司」
 軒先で、じっと空を見上げている総司に、土方がふと声をかけた。
 その柔らかな声に、総司は振り向かず、それでも唇に僅かな微笑を浮かべながら、
そっと白く細い手を差し伸べて、空から降ってくる白きものを受けた。
「雪を」
「・・・・・」
「・・・雪は、時々桜の花びらのように感じませんか、土方さん」
 雪が手に触れて解けてしまい、水になったのを愛しそうに包み込んで、彼は想い人を振り返った。
 見ると、土方は訝しげな表情をして、己を見つめていた。
 そんな視線を受け止めて、再びやんわりと微笑む。
「一つ一つはとても儚い。なのに、積もると不思議に存在感が増していく。
――――だから、時の流れが、とても身近に、感じられるんです。桜も、雪も」
 その瞳はあくまで穏やかに笑っていて。・・・でも、なにか痛々しさを感じる、表情。
「・・・総司」
 土方は思わず、細い体を強く抱き込んでいた。
「・・・・っ、土方さん・・・」
 強く強く抱き込まれて、総司は少し苦しそうに目を細め、でも抗わずに身をまかせた。
「・・・・・・言え、総司。全て、吐き出してしまえ」
 かすかに震える声で、土方が囁く。懇願するように。
「いいえ、土方さん。それは、できない」
 己も声を震わせながら、総司は力無く首を左右に振って否定した。
 土方の腕の力が、ゆるむ。僅かな距離ができる。互いに、見つめ合った。
「・・・言えないのか」
「・・・言わないのです」
 そっと目を細めた総司はそんなふうに言い直して、目の前の苦しそうな表情をしている土方の頬に、その手をやった。
 総司の手は雪に触れたためにひんやりとしていて、土方はその感触に戸惑いを覚えてそれに己の手を重ねた。
 温かく、大きな手を感じて、総司は心底嬉しそうに笑う。
 そんな恋人の様子に、つられるようにして土方も微笑んだ。
 ・・・と。
「土方副長、時間が」
 そんな声が、障子越しに聞こえてくる。
「・・・わかった。今、行く」
 土方は名残惜しそうに一度強く総司の手を握りしめた。
「体が冷える。もう、布団に入れ」
 呟き、そっと総司の体を布団に横たえた。
「ではな」
「ええ。お気をつけて」
「ああ」
 いつもとまったく同じ台詞を交わし、土方はゆっくりと部屋を出ていってしまった。
 妙な消失感が、総司を襲う。
「・・・言ってしまったら、私が弱くなってしまう」
 まだ土方の温もりが残る手を包み、胸に抱え込みながら、総司はかすれた声で呟いた。

 本当は、時間(とき)の流れを感じると、酷く寂しく感じる。
 時間に残されていく自分を強く感じてしまう。

 ・・・でも、貴方がいるから
 だから、いいんです。私の全ては貴方のもの。
 昔から、ずっと。そして、これからも、ずっと。



 雪が積もり、解けて
 桜が積もり、消えて

 ・・・そうして
 ひとつの躯が朽ちて
 ひとつの魂が自由になり
 求めてやまなかった居場所へと
 再び戻っていった


 舞うのは時。桜が舞い、雪が舞う。そして今日も、時が流れていく。


モドル

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